機関投資家はトランプの掌で踊らされている【11/10】
(S&P500と東京・金の先限、パンローリング社のチャートギャラリーより)
最近の相場は、今年前半の鬱屈したムードが嘘のように晴れやかです。
アメリカの株価指数S&P500は史上最高値を更新。
「金などの安全資産から資金が逃げ始めた」という報道まで出始めています。
安全資産が軒並み下落、金も国債も円も−「世界の終わり」取引が崩壊
しかし私は、
いまの株価上昇はやりすぎたかもしれない、
機関投資家の目算が狂いつつある状況だ
・・・という認識が世間にこれから広がっていく可能性を見ています。
絶対とは言いませんが、70%くらいの自信はあります。
そもそも上昇の前提はなんだったかを冷静に考えてみる
そもそも機関投資家が9月から強気になった理由はなんだったのかというと
・10-12月期から企業業績の底打ち感が出るはずだ
・トランプが2020年の選挙に向けて株価を引き上げる策を実施するだろう
という2つの大きな読みがあると考えられます。
特に重要なのが2つ目で、
これまでさんざん投資家を悩ませてきたトランプの高関税政策が、
選挙に向けてある程度見直されるはずだ、という目論見がないと、
これほど株価を押し上げることは難しかったはず。
企業業績の底打ちが今後期待できるといったところで、
トランプの関税政策が緩和する前提に立たない限り、
2020年の景気に対して、さほど強気な見通しは立ちません。
実際、IMFの最新の成長率予測は
2020年にかけての成長率鈍化を示しています。
2019年の世界経済成長率はリーマン・ショック以降最低の3.0%、IMFが見通しを発表
実際の米中の交渉はどう推移しているか
9月:
10月の閣僚級米中貿易交渉開催に向けムニューシンが協議は前進と発言(9/10)
2500億ドル(約27兆円)分の中国製品に対する制裁関税の拡大を10月15日に先送り(9/12)
トランプ米大統領が国連で中国の不公正な貿易慣行を批判(9/25)
10月:
トランプ政権が中国への証券投資の制限を検討との報道(10/1前後)
一部の米国企業に中国ファーウェイへの供給を許可すると報道(10/10)
農産品や為替など特定分野で第1段階の暫定合意と報道、15日の引き上げ延期、ただし中国からは部分合意の声明なし(10/12)
中国が米国との第1段階合意署名の前にさらなる交渉を希望」と伝えられたことで合意に懐疑的な見方も浮上(10/14)
米中調印へ鋭意交渉 米財務長官が会見(10/17)
12月の対中関税取りやめも 米高官、交渉進展なら「可能性」(10/22)
ペンス米副大統領、中国は「検閲まで輸出」(10/25)
米中の暫定通商合意署名、11月APECに間に合わない恐れ(10/30)
中国、トランプ大統領との長期的貿易合意の実現性に疑念−関係者(10/31)
トランプ氏、米中合意アピールできず=APEC首脳会議中止で(10/31)
11月:
米中、通商合意の月内署名が視野 閣僚級協議で進展(11/2)
ファーウェイへの部品販売許可、近く交付=米商務長官(11/4)
中国、トランプ政権に関税撤回求める−第1段階の貿易合意の代償(11/5)
追加関税、同時撤廃が不可欠 米との「第1段階」合意で―中国商務省(11/7)
米中が段階的な関税撤回で合意、「第1段階」の一部と米側確認(11/7)
米中、追加関税の段階的撤廃で合意 米政権内に異論も(11/7)
トランプ米大統領、対中関税撤回で「何も合意せず」(11/8)
10月末、チリのせいでAPECでの調印ができなくなった形なのですが、
実際は、どのみちAPECのタイミングでの合意はなかったと思われます。
おそらく、
第1段階の合意の条件としてアメリカは、関税撤廃を盛り込むつもりはなかったでしょう。
しかし中国は「関税の撤廃を盛り込んでくれ、さもないと合意しない」と強く求めた経緯が透けて見えます。
そして、交渉の現場ではアメリカ側が「関税撤廃については持ち帰ってトランプと検討する」と
穏やかな雰囲気で返事したのかもしれません。
トランプの結論を聞く前に、中国は、関税撤廃を既成事実化しようと、
「関税の段階的撤回で合意」とあえてフライング発表に踏み切ってしまったと思われます。
こんな発表がされれば株価は急上昇するに決まっています。
「選挙に向け株価に敏感なはずのトランプは
その期待を裏切れないはずだ」と考えたのでしょう。
ところが、トランプは、
「関税撤廃を盛り込むことに合意していない」と突っぱねた、
・・・というところが最新の状況ですね。
なぜこのような状況になってしまったのか
中国側は、
「トランプは選挙に向けて合意の成果をほしがっており、
株価対策のために、本音では関税撤廃に前向きなはずだ」
と、トランプの心の内を推測していた可能性があります。
“ウクライナ問題でいろいろ攻められているし、
バイデンやウォーレンに支持率で追い上げられているから、
トランプは焦っているはずだ”
と中国側には見えているのかもしれません。
その読みを頼りに、中国側は合意の詰めの段階で
関税撤廃を盛り込むことを要求したのでしょう。
ところが、トランプ、中国の期待通りではありませんでした。
トランプには今の状況はそんなに悪く見えていないのだと思われます。
「株価が好調なら現職の大統領が有利」が、大統領選の経験則ですからね。
株価指数が史上最高値を更新している状況で、不安を抱くほうが、おかしいといえばおかしい。
「関税撤廃しなくても、株価が絶好調なのだから、折れる必要はない」と
トランプは考えている、と私は推測しています。
ここに、機関投資家のミスがあります。
米中の部分合意や12月の関税撤廃を期待し、先回りして買い上げた結果、
トランプにとって関税撤廃を急ぐ理由も、
中国に低姿勢に出て合意を急ぐ理由も、大幅に薄まってしまっているのです。
そのうえ、
「中国は、人権問題を重視するウォーレン候補より、トランプ再選を望むはずだ」
という話さえ、言われ始めています。
こうした噂も、トランプの強気姿勢をサポートしているかもしれません。
今後どうなる?
機関投資家は、
「中国との早期合意や関税撤廃にトランプが思ったほど積極的ではない」
という前提で、今後の先行きをとらえなおさなければいけない状況に
陥っています。
稚拙な図で恐縮ですが、
今後の株価のシナリオは、大別すると、下記の図の@〜Bのどれかだと考えます。
今年9〜10月に株を積極的に買い上げた機関投資家のイメージは、
@またはAだったはずです。
しかし株高を背景に、関税を武器とするトランプ流の外交姿勢が
期待したほど軟化しないとなると、
2020年の景気を再検討する必要が生じることは間違いありません。
機関投資家は
・それでも来年夏までに、中国に何らかの譲歩をして関税撤廃も進めるとみてホールドするか
・対中合意や関税撤廃を促す意味でも、いったん相場を下げる覚悟で株売りにまわるか
判断を迫られつつあると思われます。
どちらを各機関が選択するのかは正直、僕にもわかりません。
企業業績の回復力をどこまで信じるかによっても、結論は異なるでしょう。
結局、トランプの心理状態を深読みして、
うまく先回りしたつもりの機関投資家が、
実際はトランプの掌で踊らされている・・・
私には今の状況がそのように見えるのです。