トランプのツィートについてメモ・・・買える理由がなくなった。しかし大きく下げる相場でもない(5月5日)

多少ラフな文章になりますが、重要な話題なので、書いてみました。
5月6日(アメリカでは5日)、トランプが突然、対中政策で関税25%引き上げを予告しました

 

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最近私は、米中関連の交渉経過をほとんど考慮していなかったのですが、
「中国が知的財産保護のために緻密な法律を整備する」などというドラスティックな
変化はそうそう起こせるものではないだろうと以前に書いた意見は今も同じです。
それでも、最近あまり心配していなかったのは、
米国要人がリークする「交渉は順調」という報道を多少は信用していたのと、
今年に入って売り残が大きい状態が続いているので、それほどの下方リスクはないだろうと考えていたからです。
実際、6日は、CMEベースでは225先物は22000円割れしたようですが、
その夜、NY取引でいったん22200円まで戻しました。7日朝時点では22100円くらいでしょうか。
直近の上昇に対して、それを信用していない売り方の建玉がそこそこ積み上がっていますから、
下げては買戻し、下げては買戻し、で、それほど極端な下げが発生するとは思えません。
しかし、冷静に考えると「足元の買い材料がなくなった」感はあります。
状況を整理してみます。

 

まず3月の全国人民代表大会(全人代)で、技術移転の関連法が発表されました。
この技術移転を禁じる法律に対し、もともと懐疑的な報道が相次いでいました。
なぜ中国の“技術移転強制の禁止”が信用できないか
http://www.1242.com/lf/articles/162124/?cat=politics_economy&pg=cozy
中国・外商投資法 技術移転の強制禁止「抜け道」懸念も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42215190Y9A300C1FF8000/
日本、強制技術移転で中国に説明要求 2日に会合
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43094540Z20C19A3EA4000/
実効性に疑問も=中国の外商投資法
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019031501088&g=int

 

これらの報道で指摘されている懐疑的な部分を要約すると、
「WTOにのっとるような原理原則が明文化され行政による技術移転は確かに禁止された。
しかし『国は自由意思の原則や商業ルールにのっとった技術提携を奨励する』
 とあるのは、今までどおりなのではないか」
ということです。要するにただのスローガンではないか、ということですね。
そして、ライトハイザーらはもっと実効性のある法整備を迫っていたものと思われます。
ここにきて中国の法改正への姿勢が問題化しました。
それがトランプの5日のツィートにつながります。
中国は一時は、法改正に前向きだったものの、
先週ごろから、法改正に拒否的になってちゃぶ台返しを行ったようです。

トランプ氏、関税ツイート前に中国の姿勢後退の報告受けた
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-06/PR3C176TTDS101
先週に北京で開かれた貿易交渉で中国当局者は米国側に対し、中国の法改正が必要になるような協定には同意しないと伝えた。
中国はそれまでは合意テキストの中で法改正に同意していたという。
  中国での事業を計画する米国企業は、独自の技術やその他の知的財産の開示を強制されており、
その慣行の是正を目指した米中の合意条項に中国の姿勢変化は大きく影響する。
  ライトハイザー代表が率いる米側は 、強制的な技術移転として知られる問題は解決されたと考えていたため、
 法改正に関する中国側の姿勢転換は再交渉を図ろうとしている行為と映ったという。これに立腹したライトハイザー代表はトランプ大統領に報告した。
最近、ライトハイザーがやけにおとなしいと思っていたら、
いったん中国は、技術移転を禁じるような法改正に同意していたんですね。
ところが先週の北京での交渉でちゃぶ台返しを中国が行った、ということのようです。

Trump ratchets up U.S.-China trade war with new tariff threat
https://www.axios.com/trump-ratchets-up-us-china-trade-war-with-new-tariff-threat-327eb3d5-7833-42f2-a603-f50d236145c2.html
この記事で重要なのは
"The Chinese are also feeling more confident about the state of their economy ...
and so think they are less vulnerable to tariffs than they were last fall. "
とある部分です。
中国は、自国経済の状態に自信を持っている。だから彼らは昨年秋よりも関税の影響を受けにくいと考えている。
中国の財政出動でPMIが回復傾向を見せて、これに反応してハイテク株が買われていましたが、
皮肉にも、こうした推移が、中国の態度硬化を招いてしまったようです。

Trump Threatens China With More Tariffs Ahead of Final Trade Talks
https://www.nytimes.com/2019/05/05/business/trump-tariffs-china-trade-talks.html
この記事の最後の部分は
Trump officials have recently expressed some impatience.
トランプ周辺は最近焦っている」とあるのですが、この根拠となるのは
White House’s Mulvaney says China trade talks will be resolved ‘one way or the other’ within two weeks
https://www.cnbc.com/2019/04/30/mick-mulvaney-says-trump-china-trade-talks-will-be-resolved-in-two-weeks.html
の報道内容です。
合意できそうな部分もできそうもない部分もある」として
The two sides have appeared to disagree not only on whether the U.S. would lift its $250 billion in tariffs on Chinese goods as part of an agreement,
but also on how to enforce provisions to crack down on what Trump has called Beijing’s trade abuses.
米国が関税を全面撤廃するかどうかということと、(おそらくは技術移転のことで)不公正な取引をどう防ぐか
の2点について意見が一致しない」と交渉上の摩擦状況をリークしています。

 

上記の報道をとりあえず信じてみるとすれば、
トランプの関税引き上げが、ただの「ブラフ」といえるものなのかどうか。
中国は、関税を引き上げられても何とかやっていけると経済状態に自信を持っている可能性がある。
これに関連する情報として、2月ニューズウイークにこんな記事が出ていました。
米中貿易戦争でトランプとアメリカが失ったもの
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/post-11691.php
この記事にある
一部の中国企業は国内生産していた製品を国外で生産するために、東南アジアの新会社に投資した。
中国の国営企業が、たとえばベトナムにある会社に投資すると、ベトナムで製造された製品は
中国に対する追加関税を課されることなくアメリカに輸出できる。
とあるのは重要な指摘です。
トランプの関税引き上げは、アメリカの一部産業にとっても痛手になっている一方で、
中国が、様々な迂回経路を確保することで、輸出を減らしていないという分析があるとすれば、
トランプの今回のツィートが果たして、どれほど中国の姿勢に変化を及ぼし得るでしょうか。

ということで「中国が慌てる。追い詰められた」とする見方に私は賛成できません。
むしろ、これはトランプ陣営の交渉不調の表面化だと考えます。
ここ1か月ほどの株価上昇はハシゴを外されてしまったように思えます。
しかし、もともと直近の上昇を信じていない売り方もたくさんいたわけですから、
一時的に暴落が起きても買戻しが起こりやすい相場状況です。
下落するにしても、下げては戻すを繰り返しつつのジリ下げくらいの推移のような気がします。
むしろ昨晩のアメリカの相場をみると、
「中国が慌てて折れる」というアメリカ有利論をまだ信じる向きも
かなりいそうですから、売りが入れば踏み上げさせるつもりの向きさえいるかもしれません。
こういうときは、あまり本気で株をやらないというのが善処策のような気もします。

 

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