「相場に訊く」べき第2の視点、日米貿易摩擦懸念は9月27日にやわらいだのか?
10月第1週は、火曜までは上昇していましたが、金曜日は結果的に、日経平均が23783円、TOPIXが1792円で、前週比と比べてもマイナスで引けました。
実は、この10月第1週の値動きについては、個人的に「ある水準」を維持できるのかどうかに、とても興味を持っていました。
それは、9月27日の前日、26日の引け値の株価指数を維持できるかどうかというところです。
9月27日に何があったかといえばトランプ大統領と安倍首相が共同で出した、二国間貿易協定に向けた交渉に関する声明ですね。
ご存じのように、安倍首相は「これはFTA(自由貿易協定)ではない。物品貿易協定(TAG)に向けた合意である」として、
TPPの多国間協定の交渉から、アメリカとカナダやメキシコがやりあっていた自由貿易協定の交渉へと、大幅に譲歩したとみなされるのを猛烈に嫌がっていたわけです。
本当に貿易摩擦の懸念はいったん後退したといえるのでしょうか。
これが今回のテーマです。
株式投資家の視点としては、
「市場の多数派が楽観している」と思えば、今後、ネガティブサプライズの火種があるな、と解釈しますし、
「まだ懸念はあるものの織り込みつくした」という状況だと思えば、底堅い動きが期待できる、と解釈するのですが。
まずこんな見解がエコノミスト筋から相次ぎました。
野村総合研究所 木内登英氏
「ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、日本に対して完全なFTA締結を目指すと明言しており、安倍首相の説明と大きく食い違っている。」(http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2018/20180927_2.html)
みずほ総合研究所の安井明彦氏
「シンプルに言えば、FTAとTAGは同じ」(BS11の番組内)
と。
揚げ句に、経済産業省の元課長、細川 昌彦氏から
「世界貿易機関(WTO)という国際ルールでは、特定国に対して関税を引き下げるにはFTAという手段しかないということを忘れてはならない。TAGという名称を付けようが、付けまいが、それはFTAなのだ」(https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/062500226/100200007/)
と解説されてもいます。
なお、ロイターは、9月27日の早々から、
「我々は今日、FTA交渉開始で合意した。」とトランプ大統領がアメリカで説明していることをストレートに報じており
ロイターの記事を金融サービス端末で見ているような証券自己ディーラーは、安倍総理の説明に当初から懐疑的なのかもしれません。
では相場に訊くということで、株価はどうなのか。
現状で9月27日の前日の26日と比べると
? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?9月26日→10月5日
日経225 24,033.79 → 23,783.72
TOPIX? ? ? ?1,821.67 → 1,792.65
となっており、「トランプとの交渉結果に安堵した」とは言い難い状況に見えます。
とはいえ、もう少し個別にきちんと見ておいた方がよいかもしれません。
たとえば、輸出が多くて業績面で影響が大きいとされる、スバル、マツダの株価を見てみると、
7270 スバル・・・9月26日の引け値3,316円。 10月5日の引け値3,454円
おっと。
上昇していますね。
7261 マツダ・・・9月26日の引け値1,334円。 10月5日の引け値1,341.5円
こちらも上昇です。
意外と、好感されているのでしょうか。
自動車株以外にも、もう少し広げて観察してみましょうか。
そこで銘柄リスト作りの参考に、ブルームバーグのこの記事。
<日本株に広がる貿易摩擦懸念、スバルなどリスク>
この記事の中で、ゴールドマンサックスのアナリストが、「貿易摩擦に影響を受ける可能性がある企業」=「米国(米州)での売上高比率と製造比率の差が大きい日本企業」として以下12社を挙げたとされています。
SUBARU、マツダ、ヤマハ、ファナック、コマツ、クボタ、NTN、オークマ、キヤノン、リコー、ブラザー工業、アシックス
コード番号でいうと
7261
7270
7951
6954
6301
6326
6472
6103
7751
7752
6448
7936
7270
7951
6954
6301
6326
6472
6103
7751
7752
6448
7936
そこで、これら12社の株価の推移の平均値を26日引け値を起点として観察すると、こんな感じです。
声明が出た27日こそTOPIXよりもやや軟調な動きでしたが(勘違いです、修正します)27日以後からほぼ一貫して、日経225とTOPIXを超える動きをしています。
これは下記の解釈が可能でしょう
・安倍首相が「これはFTA自由貿易協定ではなくTAGである」との説明がうまくいって、市場から好感された
・事前に、貿易摩擦を深刻に懸念していたので、とりあえず「悪材料がいったん出尽くした」状態となった
ただし、これで株価指数も上昇し続けていれば「市場が安堵した」と言い切れるのですが、結局、株価指数という全体指標では下落したということは
・事前に貿易摩擦の影響が指摘されていた銘柄については悪材料出尽くしとなったものの、あまり事前に指摘されていなかった銘柄では、むしろ懸念が本格化したのかもしれない
とも解釈できます。
なんだかわけのわからない話になってきましたが、このあたりが、株の難しいところで、「相場のことは相場に訊く」をしてみても、隔靴掻痒は多々あります。
で、多数派がどう受け止めているのか」というのを知るために、日々、ラジオNIKKEIを聴いたり、SNSを観察したりします。
たとえばSNSのNewspicksのコメント欄などみていると、少なくとも9月27日時点では、「FTAに向けた交渉合意ではない」という安倍総理の説明を素直に受け止めた人が、意外に多いのかなと感じます。
またラジオNIKKEIでは、町田徹氏も、「うまく時間稼ぎに成功したといってよいのでは」とポジティブな評価をしていました。
ただし、同じラジオNIKKEIでも、伊藤洋一氏は「海外では、TAGはFTAと違うなんて説明はない」「カナダ、メキシコとの合意を踏まえ、日本ともいままでの自由貿易の枠組みが変わってくる」と、かなり今回の安倍総理の説明には懐疑的な解説をしています。同じメディア内でも論者によって悲喜こもごもの解説が交錯しています。
さらに、まだら模様だなと感じさせるのは、
上記で野村総合研究所やみずほ総合研究所のエコノミストがシビアなコメントを出した一方で、
日本政府の説明をそのままストレートに伝えたようなレジュメを個人向けに配布している金融会社もあるのですね。
たとえば、三井住友アセットマネジメントなどは、「貿易摩擦はいったん後退した」というこんな資料を作成しています。
こういうのを見てしまうと、うーん、少なからず、楽観派もいるのかな、と迷いが深まります。
この話題は現在進行形であり、
5日の朝には、副大統領が「まもなく日本とFTAの交渉を始める」と演説したことも伝えられています。
で、日本政府側は火消しに躍起で、「agreementとdealは意味が違うから」とか。
この推移をみると、アメリカでは、日本政府がどう国内で情報発信したところで
・「日本との自由貿易協定が見えてきた」というアピールが再三なされるであろう
・その交渉において、自動車産業の不均衡是正や、牛肉・農産物などの市場開放を要求することも、今回の協定の延長上の話として、アメリカのライトハイザーなどが言い続けるであろう
というのは避けがたい流れに見えます。
もちろん来年以降、実際の着地点がどうなるかはわかりませんが、少なくとも海外投資家からは「日本はこれから、アメリカと二国間の自由貿易協定を、カナダやメキシコと同様に締結するのだろう」とみなされてしまっているのではないでしょうか。
実際の交渉は2019年からです。そのため実態はわからないまま「噂と思惑」がしばらく交錯する状況が続くわけで、もろもろ考えると
私の結論としては
「貿易摩擦懸念というキーワードに振り回される相場状況は今も変わりがない」
そうはいっても、前回取り上げたようにアノマリーがありますから、目先、来春に向けて上昇してくれば、その波にはもちろん乗るつもりです。ただし、小刻みに利益確定するとか、ロングだけでなくショートポジションも交えることを考えながらになるでしょう。
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