2018年8月相場の「夏枯れ」状況を検証してみた

今回、日銀のテーマを予定していましたが、8月の売買動向が少し気になったので、今回はこれで書きます。
8月の相場解説で株式評論家がこぞって触れた話題が「東証出来高が少ない」「今日は2兆円に達しませんでしたねぇ」というフレーズでしたが。
そんなにひどいか?ちょっと見てみよう、とJPXの数字を整理してみました。
結論からいうと、全体としては、2018年8月の夏枯れは、むしろ2017年よりマシだったといえます。全体としては。
では数字を。
まず、出来高を調べる前に、先物と個別株式の買い越し額の動向。
2018 第1週〜第4週(7/30-8/24 20営業日) 
単位は億円
2018年8月の買い越し合計
?部門225先物topix先物jpx先物株式all
2018自己-1228.36672.4270.6-18863828.6
2018個人146.6100.61.727773025.9
2018海外投資家-425.6-4741-311.7-5309-10787.2
2018信託銀行1361.4-1342.129.810581107.2
2018証券会社29.1-53.80.2305.4
2018投資信託-44.9-473.55.41045531.9
2018事業法人66.7-55.50.222582269.3
2018その他法人等-23.43.1-0.8400378.8
2018生保・損保-0.9183.20-34148.3
2018都銀・地銀等-101.7-1990-349-649.6
2018その他金融機関-22.1-1.7011894.2
まず目につくこととして、海外投資家が大きく売り越しです。日経平均2万3000円台乗せを遠のかせた最大要因は海外投資家といえるでしょう。
また、TOPIX先物の手口を比べると自己と海外投資家が対照的です。
「自己はTOPIX先物買い」「海外投資家は、TOPIX先物売り」とはっきりしています。
次に前年同期として2017年8月の合計がこちらです。
2017年8月の買い越し合計
?第1週〜第4週(7/31-8/25 19営業日)
?部門225先物topix先物jpx先物株式all
2017自己36352335.9339.721338443.6
2017個人762.8-40.4-3.63281047
2017海外投資家-6888.8-1460.3-269.8-6628-15246.9
2017信託銀行155.5-241.824.1922859.7
2017証券会社-51.673.10.23758.8
2017投資信託2114.2-735-92.813232609.4
2017事業法人170.80.818181836.6
2017その他法人等69.2-59.90304313.2
2017生保・損保57.1740-4982.1
2017都銀・地銀等-13.463.10-558-508.5
2017その他金融機関-5611.90239195

 

そもそも海外投資家は、2017年8月も大きく売り越していたことがわかります。むしろ今年はマシだったかも。
次に、2017年と2018年の前年同期の比較ですが、ひとつ注意点がありまして、
2017年分については、8月11日の「山の日」の祝日の関係で、営業日が1日少ないのです。
それを考慮して20/19=1.0526倍の補正を行い比較します。
買い越し額の2018年ー2017年の差分
2018 第1週〜第4週(7/30-8/24 20営業日) VS 2017? 第1週〜第4週(7/31-8/25 19営業日を20日営業日相当に補正済)
?部門225先物topix先物jpx先物株式all
2018-2017自己-5054.64213.6-87.0-4131.3-5059.4
2018-2017個人-656.3143.15.52431.71923.8
2018-2017海外投資家6825.8-3203.8-27.71667.85262.2
2018-2017信託銀行1197.7-1087.64.487.5202.3
2018-2017証券会社83.4-130.70.0-8.9-56.5
2018-2017投資信託-2270.4300.2103.1-347.6-2214.8
2018-2017事業法人48.8-56.3-0.6344.3336.0
2018-2017その他法人等-96.266.2-0.880.049.1
2018-2017生保・損保-61.0105.30.017.661.9
2018-2017都銀・地銀等-87.6-265.40.0238.4-114.3
2018-2017その他金融機関36.8-14.20.0-133.6-111.1
これらを簡単にまとめると
・今年そこそこ強気で去年よりも強気・・・・個人
・今年弱気だが去年に比べると少しマシ・・・・海外投資家
・今年強気ではあったが、去年に比べると弱気・・・・自己
となります。
一応買い越しはプラスだったとはいえ、証券会社の自己売買ディーラーも日経平均2万3000円を前にしてちょっと慎重だったといえます。
とはいえ、2万3000円台乗せを拒んだ主犯は、やはり海外投資家ということにはなるでしょう。
 また、上で触れたTOPIX先物の手口について、昨年と比べても、
 自己はNT倍率縮小方向で動いたのに対し、海外投資家はNT倍率拡大方向で動いたのと正反対なのが面白いところ
 NT倍率が異常値だという報道は既に何度も見かけましたが、自己は正常に戻る方向にベットしたのに対して、
 海外投資家はむしろ広げてやろうと考えているように見えます。
次に、個別株式の出来高(買いと売りの合計値)を主に観察するため下の表を作りました。先物のデータを除外したものになります。
株式の売買高の傾向(全市場、2017年は営業日補正済)
2018 第1週〜第4週(7/30-8/24 20営業日) VS 2017? 第1週〜第4週(7/31-8/25 19営業日を20営業日相当に補正)
単位は億円(売買代金は買+売の合計額として算出)
部門名買 前年同期売 前年同期
自己79227811147966077415
個人90002872249647696132
海外投資家330611335920314838321817
信託銀行17653165961668515715
証券会社3479344951535113
投資信託1072996851252111128
事業法人7387513059274014
その他法人等192415241241919
生保・損保10001034696747
都銀・地銀等4958465171102
その他金融機関862742926675
全体543369543264534640534776
部門名
売買代金
(買+売)
売買代金
前年同期
伸び率
買い越し額
(買−売)
買い越し額
前年同期
前年同期との差
自己1603411570752.1-18872245-4132
個人177226192607-8.027783442434
海外投資家6665316366554.7-5309-69791670
信託銀行34249324005.7105797186
証券会社692810265-32.53040-10
投資信託2041423649-13.710441393-349
事業法人12517994125.922571914343
その他法人等3448216059.640032278
生保・損保2034144340.9-34-5218
都銀・地銀等13411619-17.2-351-585234
その他金融機関160416010.2120252-132
全体108663310694161.6105-136
241

 

主に見たいのは個別株式の売買代金動向ですが、一応、買い越し額も同じ表で比較してみました。
(先物+株式の表に入っている株式買い越し額と少し違うのは、集計過程の有効数字の処理によるものです。細かい違いはご容赦ください)
全体売買高(買い+売り)は前年同期比1.6%増ですから、「全体としてはほぼ昨年の同時期並み、顕著な夏枯れではなかった」といえます。
強いて言えば、海外投資家と自己がそこそこ売買活発だったのに比べると、個人の売買額が-8%でややおとなしめだったということにはなるでしょうか。
それでも個人は売買高が減っていても、買い越し2778億円プラスです。昨年より2434億円買い越し増加ですから、個別株の市場で個人がさほど消極的だったとはいえないように思います。
全体市場ではこのように、売買高に顕著な変化は見られませんが、
市場別に見ると、顕著な傾向がありました。
このデータです。
2部+マザーズ+JASDAQの売買金額
(2017年分は営業日1日ぶん補正済)
表示部門名買 前年同期売 前年同期
自己1260116714221325
個人16356163662362123855
海外投資家12497125671419914102
信託銀行434401362333
証券会社492493933938
投資信託422475343283
事業法人400371413463
その他法人等851257175
生保・損保11461
都銀・地銀等0013
その他金融機関34876

 

表示部門名売買高売買高前年同期伸び率買い越し額買い越し額前年同期前年同期との差
自己24272747-11.793.096.8-3.8
個人3272247476-31.1-10.0-233.7223.7
海外投資家2506428301-11.4-70.096.8-166.8
信託銀行83569520.233.029.53.5
証券会社9851871-47.3-1.0-5.34.3
投資信託89762643.2-53.060.0-113.0
事業法人771876-12.029.0-50.579.5
その他法人等21014544.6-40.0-4.2-35.8
生保・損保157103.67.05.31.7
都銀・地銀等04-100.00.0-2.12.1
その他金融機関4214206.926.01.1
24.9
中小株マーケットはほぼ、個人と海外投資家だけで回っている市場です。
売買高はその2者が減っており、個人が-31.1%、海外投資家が-11.4%と大幅減少。
しかも両者とも売り越していますから、「中小株への期待を失ってしまった状態だった」とみえます。
新興市場については今年8月はかなり深刻な夏枯れといってよいでしょう。
たまに私は2516マザーズETFの板をみますが、板がスッカスカで「こんなんじゃいじれないなぁ」と思ったりもします。
ただし、個人は実は2017年の方が大幅売り越しでした(-233.7億円の売り越し)。それに比べたら、2018年8月はさほど売り越したわけではありません。
むしろ海外投資家が2017年は96.8億円の買い越しだったのに、今年は70億円の売り越しだったことが目立ちます。
わずかに希望を見出すとすれば、直近の2018年8月第4週のデータをみると、海外投資家は二部とマザーズは買い越しています(47億と34億)、その一方で個人の第4週は二部とマザーズで26億と36億の売り越しでした。
余談:2018年の中小株はなぜ弱いのか
上記は8月だけに限定して傾向を観察しましたが、ご存じのように、今年に入ってマザーズ指数は一貫して下がり続けています。
これは海外投資家の売り越しだということは、データではっきりしています。
では「なぜ海外投資家が中小株を売っているのか」について、考えてみました。
これが原因だと思います。
2018年3月期の決算短信集計結果
これはJPXが決算短信の数字を市場別にとりまとめてくれているのですが、
市場別に売上高と営業利益の前年度比を見ると、こんな結果になっています。
一部 ・・・ 売上 +7.85%  営業利益 +14.51%
二部 ・・・ 売上 -4.06%   営業利益 -27.43%
マザーズ・・・売上 +5.54%   営業利益 -22.14%
JASDAQ・・・売上 +5.63%   営業利益 +7.73%
この結果を素直に見ると、中小株より、1部の株の方が、業績期待が高いという判断になります。
日銀が景気刺激を行っているにもかかわらず、2部とマザーズで、2018年3月期の決算が営業利益2割減というのはかなり失望売りの材料でしょう。
実はJASDAQはそこそこ堅調だったのですが、これは、2部とマザーズの業績不振のとばっちりをくらっているのかもしれません。
マザーズ指数が1月から8月で1300−>1000近辺と20%以上下げているのに対して、
ジャスダック指数が190−>160近辺と15%程度下落でやや穏やかなのは、これで説明がつくようにも思われます。
ご存じのとおり、マザーズで時価総額トップのメルカリが8月9日に大幅営業赤字の決算を発表する出来事もありましたので、夏場も海外投資家が新興を売ってきたのではないかとも考えられます。

 

まとめ
・2018年8月の売買高は、2017年8月とほぼ同じレベルであり、そうひどい夏枯れとはいえない。
・株式+先物で海外投資家は大幅売り越しだったが、2017年8月よりは売り越し額は少なくマシだった
・株式+先物で強気だったのは証券自己と個人。ただし証券自己は昨年より慎重、個人は昨年よりやや強気だった。
・2部、マザーズ、ジャスダックを合計した数値は、深刻な売買高減少が見られ、「中小株離れ」が個人、海外投資家とも鮮明
・先物の手口を見る限り、NT倍率を海外投資家は広げようとし、証券自己は縮めようとしているように見える
HTML Comment Box is loading comments...